野方区民ホール、2014年10月22日ソワレ(初日)。
20××年、ついに秘密保護法違反の逮捕者が出た。メディアの取材合戦にもかかわらず、検察・警察は秘密保護法を盾に事件の内容を一切明らかにしない。裁判当日、姿を現した被告人はなんと普通の市民9人! 原発に勤務する青年とその幼なじみ、そして町内会の面々だ。無罪を主張する弁護側と組織的犯行を主張する検察とが真っ向から対立。彼らはいったいどんな「秘密」に触れたのか…?
作・演出/田中広喜、作曲・アレンジ/小澤時史、振付/山本真実。全1幕。
秘密保護法をモチーフにしたオリジナル・ミュージカルで、昼間は会社員などをしながら年一回の公演を行っているセミプロ劇団での上演…と聞いてどんなものかなと思いつつ出かけたのですが、おもしろくて仰天しましたしうっかり泣きました。その上でいろいろ考えさせられました。
まず、近未来…というよりほぼ現代の日本を舞台にしていて、かつ場面のほとんどが裁判所だったりしても、いわやるミュージカルのお作法をちゃんと押さえた作りになっていて、転換や役者の出し入れもちゃんとしていてまったく飽きさせずスムーズだったことに感心しました。歌詞もセリフもとてもわかりやすく聞き取りやすかったです。詩的で印象的なものもありましたし。
ただ役者の歌唱力はピンキリ、というよりは私にはやや不満なものが多く…スナック勤務の綾乃役の伊藤紫央里だけが飛びぬけて上手かったけれど、あとは訓練が足りていない感じだな、と思ってしまいました。実際にはただの素人が舞台に上がってもあんなふうに演技したり歌えたりしないってわかっています。彼らはセミプロでも十分訓練を重ねているとわかっている。それでもプロとは違うんだろうな、と考えてしまうのは私の心の狭さです、すみません。
でも演技力もやはり役者によってかなり差があったように感じました。セリフの口舌の良さとかとはまた別に、表情の作り方というかなりきり方というか。現代劇だけにみんなナチュラルでそれはいいんだけれど、だからこそ一枚作りこんだ上でヒロインやっています、という態の森崎みずきが観ていて私は一番ラクでした。
つまり舞台は観客の目の前で実際に生身の役者が演じて見せる生ものなんだけれど、そこに描かれる世界はたとえ現代ものであろうとある種のファンタジーであってほしい、そしてその中からリアリティを感じ取って鑑賞する楽しみ方を私は求めているのだな、と改めて再確認したのです。だからファンタジーを成立させられるだけの力量が欲しいし、普通すぎたり下手だったり自然すぎたり生すぎたりすると興醒めして鼻白むのでした。
それでも役者はそれぞれちゃんと芝居をしていてそれぞれの位置を確立していて、そして物語は盛りだくさんででも盛り込みすぎてはいなくて、本当によくできていました。女弁護士と女検事のユリユリしい場面とかあったしな!(私の邪眼です)
「秘密」が原発関連のものであることは、当初はどうかなと思っていました。秘密保護法に反対であることと原発に反対であることとはまったくイコールではないと思うので、物語の流れとして上手くいかないんじゃないかな、と思えたので。
でもこれもいい意味で裏切られたというか杞憂となったというか、さらに大きな、「暴走する国家」への不安と警鐘、みたいなものに上手くまとめられていたと思うので、よかったと思いました。
弁護士にも検事にも押されておたおたしコミカルな役回りを担っていた裁判官が最後に英断を下す流れもよかったです。
そして被告人の一部が有罪判決を受ける結末もよかった。この法律下ではそういう判決を下すしかないからです。でも裁判を通して真実が明らかになり、この法律の方がおかしく危ういのだということがさらされた。だから法律を変えるべきなのである、という結論です。
被告人の一部は正しいと信じて正しいことをしました。そのために罰を受けることもある。でもそれは引き受けるべき罰なのかもしれないし、少なくとも引き受けることを覚悟して及んだ行動なのだから罰ではないし勲章ですらある…そんな潔さ、美しさに、泣きました。
おもしろい観劇経験となりました。誘っていただけて感謝しています。