駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『モーツァルト!』

 帝国劇場、2005年7月21日ソワレ。
 1768年、ウィーン。ザルツブルクの宮廷楽士であるレオポルド・モーツァルト(市村正親)は、名士が集まる貴族の館で、幼い息子がピアノを弾くのを目の当たりにしている。5歳にして作曲の才を花開かせたその子供は、「奇跡の子」と呼ばれていた。歳月は流れ、そのヴォルフガング(この日は中川晃教)は音楽活動を続けている。かたわらにはいつも、奇跡の子と呼ばれたころのままの分身・アマデ(この日は高橋愛子)が寄り添っていた…脚本・歌詞/ミヒャエル・クンツェ、音楽/シルヴェスター・リーヴァイ、演出・訳詞/小池修一郎。1999年ウィーン初演、2002年に東京初演したものの再演版。

 初めて観たのですが…うーん。『エリザベート』のコンビの作品だとは知っていましたが、リプライズが多くて覚えやすかったそれとちがって、難しい曲が次々とたくさん並んで耳なじみが悪い感じ。何人かのキャストの歌唱力のせいかもしれませんが…それから暗転が多く、登場人物もバラバラと多く、ストーリーが断続的な感じを受けました。誰に感情移入してどんなお話を追っていったらいいかかつかみづらいのです。

 そして何よりテーマが…いや、天才の孤高とかそれゆえの不幸とかって、好きなテーマであるだけに、エンターテインメントとしてはなかなかに難しいのだなーと痛感しました。アマデというアイディアは本当にすばらしく(一言もしゃべらずただ五線譜に向かい続けている子供…でもすごく芝居っ気があってグッドでした)、彼の天才を表現し、一方でヴォルフガングは上司に命令されるのも嫌だし父親にも反抗したいし恋人だって欲しいしという、俗世間向けの欲望や意思を持った人間の部分を表現します。だけどなんかこう…わかりづらいんですよね。
 私は漫画『マドモアゼル・モーツァルト』くらいの知識しかないのでよくわからないのですが、コロレド大司教(妙に押し出しがいい役者だなと思ったら山口祐一郎だった)はどうしてあんなにモーツァルトに固執したのでしょうか…そしてレオポルド(歌が聴きづらくて仰天したんですけど…)は息子を本当のところどう思っていたのでしょうか。というかどう思っているものとして演出されていたのでしょうか。意図がよく見えなかった…レクイエムの依頼人がレオポルドの霊、というのはいい案だとは思ったんですけれどね。

 歌が良かったのはナンネールの高橋由美子やコンスタンツェの西田ひかる。女優に甘いわけではありません。ヴァルトシュテッテン男爵夫人は今月は久世星佳ですが、タータンの『星から降る金』を聞いてみたいと思いました。ノンちゃん、苦しかったよ…
 それからシカネーダー(吉田圭吾)がすばらしくって見惚れました。何者!?という感じで舞台をさらっていたと思います。
 初演に初舞台で主役に抜擢されて話題を呼んだ中川晃教ですが、聞き取りやすく音程も確かで頼もしかったです。背が低いのが役者さんとしてはネックなのでしょうか…フロックコートというのかな、あの下に現代的なTシャツと汚れて穴のあいたジーンズ、というモーツァルトの衣装は象徴的で、良かったです。