駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

Kバレエカンパニー『ドン・キホーテ』

 オーチャードホール、2004年11月18日ソワレ。
 スペイン内陸部のラマンチャ地方。ひなびた田舎に人知れず暮らす老紳士ドン・キホーテ(ルーク・ヘイドン)は中世の騎士物語を読みふけるうち、現実と夢想の区別がつかなくなって冒険の旅に出る。一方、バルセロナの旅篭の看板娘キトリ(この日は荒井祐子)は恋人で理髪師のバジル(熊川哲也)と相思相愛だが、父は裕福な婿を取りたいと考えていた…原振付/マリウス・プティパ、アレクサンドル・ゴールスキー、音楽/ルードヴィヒ・ミンクス、演出・再振付・舞台美術・衣装/熊川哲也。全3幕。熊川版古典全幕バレエの第5弾。

 堪能しました。跳んだり回ったりがバレエじゃないとわかってはいるけれど、舞台上で元気にピンピン跳ね回る熊川哲也を観ていると、アクロバティックな超絶技巧を観る楽しみというものを存分に味わえます。思わず声が出てしまうし、思いっきり拍手がしたくなるのです。一幕最初のキトリとの踊りなんて、サポートしている場面はともかく、並んで同じ振りを踊るところは絶対にプリマを置いていってしまっていました。でも許す(笑)。
 三幕のパ・ド・ドゥの中のソロでは思いっきり拍手ができて満足でした。普通は拍手を受けるために舞台の前面に出てお辞儀をするのはプリマだけなわけですが、ここでは熊川哲也に思いっきり賛辞が贈れたので。だいたいこのヴァリエーション、何がすごいってプレパラシオンが美しすぎることですよ。これから跳ぶぞ、回るぞ、っていう大きなエネルギーをぐっと溜めて余裕で音を待つそのパワーに見惚れました。ブラボー!

 1989年のローザンヌ(東京開催とは知らなかった)でゴールド・メダルを取った踊りは、思えばこのヴァリエーションだったのでした。

 正直、ストーリーにすごく意味があるとか深いキャラクターやドラマがある訳ではないし、私はどちらかというと『白鳥』とか『ロミジュリ』とか『マノン』とか、ぶっちゃけて言えば辛気臭い悲恋ものの方が好きなんですけれど、でも、こういう明るく楽しい全幕ものの「結婚式の第三幕」ってのはいいもんだなあと、改めて思いました。ガマーシュ(サイモン・ライス)も踊る、サンチョ・パンサ(ピエトロ・ペリッチア)も踊る、闘牛士たちも花売り娘たちも踊る、踊る。本当に楽しいです。花形闘牛士のエスパーダこの日はスチュアート・キャシディでしたが、恰幅が良くて押し出しが立派で濃くって、ものすごく役にぴったりでおかしかったです。でも明日は熊川哲也がエスパーダに扮するそうな。どんなふうになるんでしょうね? エスパーダの恋人メルセデスはこの日は松岡梨絵。ほっそりとしていて、私はキトリより好みだったかも…

 あと、衣装がよかったと思います。街の娘たちのスカートはなんか柔らかくて軽そうな生地に見えて、レーシーで厚いペチコートが中に一杯入っていてお洒落。二幕の妖精たちのチュチュはクラシックなものなのですが、半径が小さくてミニスカートふうで、フチというかヘリがぎざぎざでふわふわしてとっても素敵。トータルの色もきれいでした。三幕一場のキトリは青が勝ったパープルで超シック! 闘牛士たちも鮮やかでした。
 名ダンサー必ずしも名芸術監督ならずなので、独立したときは正直大丈夫かいなと思ったものでしたが、カンパニーの主催者としても振付家としても踊り手としてもがんばれているようで、安心しました。またいろいろ観に行きたいです。