駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『流白浪燦星』

 南座、2025年9月14日11時(二等席3階8,500円)。

 初演の感想はこちら。

komakoblog.hatenablog.com


 今読み返すと大激賛すぎて(笑)、おちつけそれほどではないとか少なくとも他を貶めて褒めるのは良くないとかつっこみたくなるのですが、でも今回も十分楽しかったです。
 今回は石川五右衛門が尾上右近に、傾城糸星が大谷廣松に変わった…のかな? 鷹之資や猿弥さん、やじゅさまは変わらずいてくださいました。
 右近さんの五右衛門は、よりクールにニヒルにスマートになって、より五ェ門っぽかったかもしれません。マッティの五右衛門も一癖ありそうな圧というかなんというか、がよかったですけどね。褌姿にはなりましたが、寝ていただけなのでおちりは出ていませんでした。なんだったんだマッティのおちり祭りは…(笑)
 でも、五右衛門がキーパーソンの物語なので、ここのキャストを変えて再演していく、ってのは大正解なんじゃないかと思います。糸星には気鋭の女方さんを起用していってさ…それでいつか、今は大正解すぎてもう他には考えられない、ってハマりっぷりのルパンも次元も不二子ちゃんも銭形もキャストを変えていけたら、それが本当の大成功で、古典になっていく道が開かれるってことだと思います。それだけのポテンシャルはある、やはりよく出来た舞台だと思いました。
 コンパクトにやろうと思えばもっと巻けるけど、ちゃんと歌舞伎っぽくしようとして、あえていろいろ取り入れている部分もあるんだし、悠長ではあるんだけれど、ゴージャスだし、このままでいいのかな、とも思えました。1幕ラストが全員登場のだんまりで全員でキメて終わって、2幕とっぱしにその解説が入るのもいいですよね。そしてこのだんまり、暗闇の中で手探りで…ってのはもちろんなんですが、その後の運命の絡み合いとか、そういうものを表現してもいるんだな、と今回学習しました。イヤそんなルールはない、ってんならすみません。でもたいてい、そこに現実にいるのはおかしい人、ってのが出てくるじゃん。今回なら銀座衛門(市川猿弥)はともかくとして、糸星なんて傾城がお付きも付けずにこんなところに出歩けるはずもないわけで、さ。
 斬鉄剣がいかに生まれ、五右衛門の子孫に受け継がれていったか…という、まさしく「エピソード0」みたいな物語で、ホントよくできていると思います。ラストに白浪五人衆でシメるのもホントたまらん…! ついに屈して、笑也さん不二子ちゃんのアクスタを買って帰りましたとさ(笑)。いやーお着物でも巨乳に作るあの素晴らしさ色っぽさ、おさすがでございました…! 日帰り遠征でしたが、大満足です。

南座

三階席からの眺め

三階二等席、最前列で快適でした。しかしここの三階はいつも床の謎の傾斜やめっちゃ高い階段に足を取られる…

 

宝塚歌劇花組『悪魔城ドラキュラ/愛,Love Revue』

 東京宝塚劇場、8月28日18時半(新公)、9月3日18時。

 巨大な蝙蝠群がる不気味な城、悪魔城。城主ドラキュラ(輝月ゆうま)は何世紀にもわたり、何度も蘇っては人間たちを脅かしてきた。だが5年前、ふたりの若きヴァンパイアハンターにより討伐され、平和が取り戻されたはずだった。人里離れた森の中で密かに暮らすアルカードと名乗る男(永久輝せあ)はドラキュラと人間の女性の間に生まれ、何百年もの間眠りと目覚めを繰り返しながら、実の父であるドラキュラと対峙する宿命を背負って生きていた。ある日、森深くに迷い込んだ少女(初音夢)を村に送り届けるため、アルカードは久しぶりに人前に姿を現すが…
 原作/株式会社コナミデジタルエンタテインメント「悪魔城ドラキュラ」シリーズ、脚本・演出/鈴木圭、作曲・編曲/吉田優子、伊賀美樹子。1986年の第一作発売から今日に至るまで国内外のファンから愛され続けるゴシックホラー・アクションゲームのミュージカル化。

 マイ初日雑感はこちら
 だいたい語り終えているかな、と思います(^^;)。その後何度か観たら補完して観ることに飽きてしまい、ちょっと退屈してしまったので、やはりゲームの舞台化としてはとても良くできていたんだけれど、宝塚歌劇という点ではやや物足りなかったのかなー、というのが私の評価です。やはり2番手スターのほのかちゃん演じるリヒター(聖乃あすか)が、まあラスボスひとつ手前みたいな存在という意味では大きなポジションだったのかもしれないけれど、そこに至るまでは主役コンビとドラマとして絡まないので、宝塚歌劇はトップトリオのドラマがあってこそ、と考えている私には消化不良だったのでした。
 ただ、個々の設定はホントーにオタクのツボだよな、とは思っています(笑)。アルカードもマリア(星空美咲)も、リヒターも、そのネックに婚約者アネット(美羽根愛)が人質となっているというのも、ドラキュラとその人間の妻リサ(朝葉ことの)も…
 まあでも次はかりんさんを交えての日本物、それも悲劇!と正統派の演目が来そうなので、それを楽しみにしています。

 新公は東西観られたので、以下簡単に感想を。
 演出担当は中村真央先生で、大きな変更はなかったかと思います。映像もちゃんと新公バージョンになっていました。
 全体としては、こういう作品の新公は苦労するよなー、という印象だったかな。コスチュームものというかコスプレもので着替え含めて段取りが多くて大変だろうし(その分、下級生には良き学びの機会となったことではあるでしょうが)、それをこなすのに必死でそこからの芝居、というほど深みを見せられる域にはまだなかったと思うので…
 でも、まずは綺麗に出る、ということがちゃんとできていたアルカード夏希くんはそれだけでも立派でした。タッパあってスタイルもいいし、押し出しは満点。ただやはり憂いがあるとか、本当は熱かったり優しい心もあるんだけれど…というのをにじませきれていなくて、単なる仏頂面の男に見えてしまったかな、というのはありました。ポテンシャルを持った若手男役さんだと思うので、フツーの芝居をもっと観てみたいなーと思いました。がんばれー!
 進撃の彩葉ゆめちゃんも、本役以上に顔が小さくてスタイルがいいのがこういう衣装には負けて埋もれて見える気もして、やはりちょっと残念だったかな。演技も工夫していろいろやれていることはわかるのですが、やはり単純に場数がまだまだ足りないところでのこういうお役は荷が重いと私には思えました。これまたフツーのお姫様役でもんのすごく輝く…みたいなところが観たいかも。がんばれー!
 リヒターは宇咲くん、健闘していたけどやはり丸顔が可愛らしく見えすぎた気がしました…アネットは真澄ゆかりん、かーわいーい! 芯が強い女性像が垣間見えてよかったです。
 ドラキュラの鏡くんは覚醒してきた感があったかと思います。ここらで真ん中ができると強いと思うんだけどなー…リサは七彩ちゃん、しっとりとさすがでした。私はこの人はお姉さん枠の方がハマるのではと思っているので…
 デスは纏くんで、本役と違うメイクを研究していてその意気や好し。シャフトのまるくんがさすがのさすがでしたねー。オルロックの月翔くんは大劇より東京でネチっこさが出てきていて良きでした。逆に使い魔の光稀くんは大劇の方がなんかインパクトあったなー…
 サキュバスみくるんの声はやっぱりうたちに聞こえました、何故なんだ…(笑)マグヌス月世くんも健闘していましたが、私はらいとファンなのですんません…
 リディは優花りらちゃんでしたが、本役の初音夢の上手さを改めて思い知らされました。子役って難しいんですねー、幼くいじらしく演じるのって技がいるんだな、と思いました。いやフツーに可愛かったんですけど、やはりある種のキーパーソンにならないといけないポジションのキャラクターだと思うので…
 そのゆうゆは新公では半妖精でしたが、これは逆に幼く作りすぎたかも? 本役の彩葉ゆめちゃんの方が異形の者感があってよかったかも、と感じました。でもこれは好みの問題かな…
 東京では大劇より席がよかったこともあって、星空ちゃんのバイトがほぼほぼ見つけられた気がします。やはりパッと華があったり、ダンスがひときわキレッキレだったり、モブでも感情を押し出すパワーがあって目を惹くんですよね。すごいことだなー、と感心しました。
 しかし劇団全体に、コロナ渦の影響もあるのか106期以下の特に男役スター育成に苦労していると思われるので、むりくりにでもがんばらないとあとがつらいぞー、というのは案じています。主演経験者がかせきょー、オディセ、エンリコだけってのは心配でしょう…まあ無理にやらせればいいってものではないのかもしれませんが、「この生徒を押す」と決めたら絶対にそうする劇団にしては後手後手になっている気がするのです。もう110期が配属になってるんですから…


 ロマンチック・レビューは作・演出/岡田敬二。
 シリーズ第23弾とのこと。でもこれは良きマンネリでした。
「愛の誘惑」も「熱愛のボレロ」も何度も再演されている場面ですが、フルサイズでやることに意義があると思えましたし、新場面の「追憶」がめっちゃよかったというのもある。これはまた再演されていってほしい場面だなー…! プログラムにあるほどの細かい設定は伝わらなくても、振りと音楽と装置の力で惹き込まれるものがありました。もちろんひとこ始めメンバーの踊りが上手いってのもあるけれど…衣装もよかった、袖の三角ヒラヒラは必須です!!
 たっぷりの中詰めラモーナはゴージャスでしたし、ロケットも尺が長めで楽しかったし、フィナーレの構成もバッチリで、デュエダンの選曲もいい。エトワールはみょんちゃん、休演復帰がめでたくて嬉しかったです。
 まあもうちょっと意外なスターのピックアップがあってもよかったかな、とも思うのですが、ロマレビっていつもそこにあまり拘泥していない印象だからな…岡田先生にあまり興味がないとなると、演出助手の竹田先生以下が勝手に何かできるものでもないのでしょう。そういえば振付助手にどいちゃんが入っていましたね、最近お名前をよく拝見する印象です。
 早めにマイ楽を終えてしまいましたが、このあとも何度か観たことがある…程度の後輩を送り込むので、どんな感想が聞けるか楽しみです(笑)。
 円熟していく花組を観ていけるこの先も、楽しみです!!!

 

マイ楽の友会席からの眺め!

浴びましたね…!

マイ楽の友会席からの眺め。浴びました…!

 

宝塚歌劇が滅びる日 3

 2025年9月1日に、宝塚大劇場において、「宝塚歌劇111周年記念式典『One and only きらめきの、その先へーー』」が開催されたそうです。かつてはレビュー記念日として、公演があればそこにオマケのセレモニーがくっついて上演されたりしていた日ですね。
 宝塚友の会会員も抽選で参加できましたが、私はもちろん外れました。
 聞けば招待されたOGが1,100人ほど、友会会員枠は400人ほどだったそうで、その他来賓や関係者席はあったでしょうが、とにかく大劇場は満席にはならなかったんだそうです。な、何故…?
 友会募集はまあまあ直近だったし、そのときにはOGの出欠確認なんか済んでたんだろうから、フルで当選させればよかったのでは…? 出欠が不確定な来賓その他のために多少の余裕を持っておきたかったんだとしても、ちょっともったいない空け方だったのでは…?
 お土産の数が足りないとかなら、別にそんなものは要らないから入れてくれ、ってファンはいくらでもいたと思うんですけど…残念なのは、式典の第二部としてフツーに月組の『GUYS AND DOLLS』が上演されたんですよね。つまり月組子は二階後方席が赤い、かつて一時期常に見た、最近でも大劇場では演目によってけっこうある悲しい風景を見てしまったわけで…実行委員会みたいなものがあるのか知りませんが、何考えてんねん死ぬ気で満員にせーやオラ!と言いたい気分です。

 記念口上は月・星・宙組トップコンビで。すなわち、ちなつとじゅりちゃん、ありちゃんとうたち、ずんちゃんとさーちゃんです。ありうたはトップスターとしての公式の初仕事がこれになったのかな? めでたいですね。司会はみきちぐさんだったとのこと。OGから歓声が沸いたと聞きました、これは微笑ましいですね。
 来賓代表の宝塚市長の挨拶などあったのち、記念奉舞として宝塚歌劇ならではの洋楽による日舞が披露されたそうです。マイティがセンターだったり、もえことシンメになったりした模様ですね。あとは音校生の歌唱と、歴史を振り返る記念映像もあって、そのあとは宝塚メドレーとして大階段が出たミニショーになったようです。
 楽曲は「タカラジェンヌに栄光あれ」「Exciter!!」「ル・ポァゾン 愛の媚薬」「Music Revolution!」「心の翼」「Killer Rouge」「シトラスの風」「パレード・タカラヅカ」。定番のタカラヅカ賛歌と、各組の代表的なショー主題歌ということでしょうか。ミュレボやキラルはそこまで組の代表曲という感じもなくて、他にも候補はあったのでは?とも思いますが、まあノリが良くてよかったのかな。
 そして出演は星組生と宙組生、研一のA、C班のみのはずだったのですが…なんとかりんさんの花組子としての初仕事がここになりました! いやー持ってるねえぇ!! というわけでタカラヅカスカイステージの「タカラヅカニュース」の映像でしか知りませんが、白燕尾のかりんさんが大階段センター板付きで幕が開き、朗々と「タカラジェンヌに栄光あれ」を歌い、銀橋にも出ちゃって「♪バチッバチッバチッ、ショートする熱視線で~」のあの振りをしちゃってくれちゃったのですね!! キャーーーー!!!
 え、で、なのに、「『Exciter!!』は花組生え抜きの生徒にやってもらいたかった」って声がツイッターだかどこだかで上がったんですって?
 は? え??
 このブログでは一部の書体をデカくするとかはしていませんが、ここからデカくしたい気満々なんですけど、初演の主演のまとぶんは星組から組替えしてきた花組トップスターなんですけど!? 花組はオサのあと先代のれいちゃんまで、何代か生え抜きトップスターが出ていませんでしたけど!?!? 現トップスターのひとこが雪組の御曹司だった時代をよもやご存じない方の発言ってことですか? てか今のトップスターのメンツ見なよ、ずんちゃん以外全員組替え経験者ですよ? そして矛盾しているようですが、ずんちゃんが生え抜きで宙組のトップスターになったことには意味があるのよ、宙組が創設以来20年以上もかけてやっと出した生え抜きトップスターなんだから!(トップ娘役はまどかが先んじて務めましたが)でもこれでやっと宙組もフツーになった、ってだけのことであって、そもそも生え抜きにそーんなに大きな意味ありますか?って話ですよ。
 つーか、ほのかちゃんにやらせてあげたかった、って言いたいんでしょ? ならそう言えよって話ですよ。そういう潔くなさが嫌。「生え抜き」という言葉の陰に隠れてチラッとやってる仕草じゃん。
 別に普通にこのままいけば、ひとこが辞める頃にほのかちゃん主演で全ツやってそのショーが『Exciter!!』、ってのは全然あるんじゃないんですか? このショーがそこまで名作なのか、ってのには議論の余地があるところだと思うけれど(チェンジボックス場面はルッキズムその他の問題からそろそろダメでしょう…となるとこのショーらしさ、って何?)、なんせ主題歌がいいので愛されていてみんながやりたがる、やらせたがるってのはわかりますよ。だからいつかほのかちゃん主演でやればいいじゃん。でも今はいないでしょ、東京で公演中でしょ、だからかりんさんが唯一稼働できる花組生として、花組代表として、花組の代表的なショーの主題歌を、星組子や宙組子と共に担ってくれたんでしょ、あっぱれだしむしろありがたいことなんじゃないの??
 もちろん、劇団にも、こういう反応を予測して、たとえばビューティフルガーデンでもコンガでもなんならジタン・デ・ジタンでも、今までの花組ショー主題歌なんて他にいくらでもあるんだからなんでも選んだらええやろ、デリカシーないなぁ、とは言いたいですけど、でももしかしたら確信犯なのかな、とも思いますしね…
 ただ、かりんさんが合流しても、花組の2番手はほのかちゃんですよ。大羽根も背負ったしね。次の本公演、かりんさんはフツーに小さめの3番手羽根で降りてくると思うけどなあ…よしんば同じ大羽根背負わせてダブル2番手としたとしても、あくまで上手、内側にはほのかちゃんを置いて、かりんさんは下席扱いとすると思いますよ? 一度は、ね。
 というのも、劇団は100期ならおだちんよりほのかちゃんをずっと大事にしてきていて、なんでも先にやらせてきた歴史があるからです。そんなのは見てたらわかります。でもコロナ渦で計算が狂ったのか、もうそんな調整がつかなくなったのか、2番手羽根を先に背負ったのはおだちんでしたが…でも、これまでの歴史があるし、私の目にもほのかちゃんってホント花組の王道スターに見えるので、フツーにこのまま花組トップスターになるのが既定路線だと考えていて、なのでかりんさんの組替えはホント謎です。劇団が何をどうしたいのかさっぱりわかりません。ちなみに私はVISA冠の後任こそかりんさんだと思っていたんですけれど、意外やかみのもとでしたし、ホント、長く見ていても全然わからないことばかりな世界なのです。
 でも、このあとさらに番狂わせが来るんだとしても、でもマジでそんなの生徒のせいじゃないじゃん。しかも現時点にはホントになんの関係もないじゃん。なんでそんな自分たちを、自分たちの贔屓を下げるようなことを言えるんですかね…万人が見るSNSで。ファン同士の飲み会で言えばいいのでは?
 引き合いに、勝手に?ミュレボを歌われても文句ひとつ言わない雪組ファンは…みたいなことも言われていたりしたようですが、そうやって下げ出すと収拾がつかなくなるのでそこで止めとき?と思いましたし、これに関しては実は私は思うところがあって、御園座が公演中だから雪組生は式典に不参加なんだけれど、バウ公演は終わっていて、少なくともそちらの出演者は客席に座ることはできたんですよね。でもバウチームはこの日、御園座観劇に行ってるんです(全員かどうかは知りません)。楽までまだちょっとあったので、観劇は別の日にもできたはずですが、式典をスルーして行っているわけです。私はこれは、一禾あおくんのことを踏まえての、静かなるボイコットだったのでは…と、思ったり、したのでした。

 スポーツ紙などの記事をきちんと追っていないので不正確ですみませんが、式典では理事長の挨拶か何かで、なにがしかの「お詫び」は述べられたようなんですけれど、それはおそらく世間をお騒がせしたことに対して、とかなんかそういったもので、あとはまた改革は引き続き進めていきますので、みたいなことをテキトーに言って終えたのでしょう。すみません、失礼だとは思いますが全然信じていないので、こんな書きようになっています。
 いや、ファンやOG、関係各者や株主のみなさまなどなどに対して、信用やブランドイメージを毀損したことを陳謝するとか、再建の誓いを立てるとかは、大事なことですよ? 必要なことだと思いますよ? ちゃんとやっていて、それは偉いです。
 でも、それとは別に、遺族への謝罪はずっとずっとしていくべきものなのではないのでしょうか。そしてたとえばほんの1分、有愛きいさんのために黙祷する時間を、取れなかったのでしょうか…?
 遺族に断られている、とかなんらかの差し障りがあるというなら、小林一三先生を始めとするすべての劇団関係者、スタッフ、劇団員の全故人に対して、という形にしてもよかったじゃないですか。111周年まで歴史をつないでこられたことへの感謝の思いを捧げるために、関係故人への追悼の時間を取ろう、という声は、式典実行委員の誰からも上がらなかったんですか? それとも上がっても潰されたんですか? 検討すらされなかったんですか? 本当に、誰も、黙祷があった方がいいと思わなかったんですか?
 式典の前日に宝塚ホテルで開催された宝友会、つまりOGの大同窓会では、物故者への黙祷が開会の挨拶後の一番にあったそうですよ??
 なのに劇団は…このまま、何もなかったことにできる、とまさか本当に思っているわけではないんですよね???
 そこが信じられないから、未だファンではあるけれど足が徐々に遠のくし、観ていても何かが引っかかり続けているんです。心から楽しみきれないし、常に薄ぼんやりした罪悪感を抱え続けているのです。これはこの先も決して消えないもので、ファンも関係者もスタッフも生徒も全員が、この先一生背負い続けなければいけないはずのものです。だって、命だけは取り返しがつかないものなのですから。それくらい、人ひとりの命というのは重いものなのではないでしょうか…?
 私のせいじゃない、私は関係ない…なんて誰も言えない事件だったと、私は考えているのですが、劇団首脳陣がここから逃げてるんじゃ、何も始まらなくないですか? その、改革への出発点の確認すら未だきちんとできていないっぽいことに、私は深い絶望を感じるのでした。

 さらには、OGの観劇態度の問題です。
 式典の司会者登壇に歓声が上がったとか、宝塚メドレーが大ウケだったとかは、良きことでしょう。でも携帯電話がやたら鳴るとかおしゃべりがすごいとかってのは、ちょっといただけなくないですか? 幕間も大変な大はしゃぎで、第二部の『ガイズ~』の幕が全然開けられず、いつもにはないアナウンスが入ったそうですし、それでも舞台が始まってからも、まあプロローグに大盛り上がりなのはスター紹介パートでもあるからいいかなと思うんですが、芝居が始まっても携帯は鳴り続けおしゃべりは止まず、タイヘンだったそうじゃないですか。
 幕間に蛍嬢に注意を頼みに行った友会会員もいたそうですが、そして実際にOGに注意が行ったようですが、それでも改善されなかった、ということですよね? 明るいハッピーエンドの作品だし、まだ許される雰囲気もあったかもしれませんが…でも、せっかくの後輩現役生たちの舞台を、もっと真面目に、きちんと観てあげられなかったのでしょうか? それとも上級生のために下級生がやっている余興だとでも思っているんでしょうか? それで何をどうつっこみ自分たち同士でいくらくっちゃべろうと、上級生だから許される、というタカラヅカ・ローカルルールですか?
 でも、OGだって卒業したらただの一観客なんじゃないんでしょうか。同じ客席にいる、抽選に当選した友会会員と等しく、通常の観劇マナーを守り、携帯の電源は切って私語はせず身動きも最低限にして前のめりはNG、ってのが当然なのでは? この日客席にいた友会会員には、これがマイ初日とかこの回しか観ない、という人はおそらくいなかったのではないかと思いますが、でもだからってやっぱり大事な一回ですし、おちついてちゃんと観たかったはずです。抽選で無料で招待されてるんだから客じゃない、とか宝塚歌劇がここまで続いてきたのは歴代出演者つまりOGのおかげなんだから客は差し出口するな、みたいに言うのは…ちょっと、あまりにも、おかしいんじゃないですかね?
 十年に一度の機会で、久々の再会もあって、はしゃぎたくなるのはわかりますよ? でも前日に大同窓会があったんでしょ? そのあとも期ごとの同窓会があちこちのお店で開催されたんでしょ? なら積もる話はそこでしようよ、目の前の舞台はちゃんと観ようよ…
 友会会員を入れず、関係者だけでクローズで、しかも『ガイズ~』部分はOG応援上演会みたいにしていたら、存分に騒げて楽しめてよかったのかな、とも一瞬考えたのですが…でも私語OKとかにしたら、応援発声というより自分たちの話に夢中で舞台なんか観なくなりそうですよね。直接知っている後輩ももういない、みたいな層のOGの方が多そうですし。そうなると応援も何もないし、ホントただの宴会余興扱いになりそうで、それは月組子がかわいそうすぎやしないかい…?と、思い直しました。
 つーか余興ってちょっともはやいろいろアレでは、とも思うんですよね。そりゃ舞台度胸をつけるためとか、恥かいてナンボとか、関西お笑い気質とか、なんかいろいろあるんでしょうけれど、やっぱりいじめの温床になっていませんか?という気がしちゃうのです。上級生が白と言えばカラスも白とか、まだまだありそうだなーとか、その延長にあの事件があったってことの証左じゃんって気しかしない。なーにが無礼講だよ、昭和の酒の席じゃねーんだよ、平成もとっくに終わってもう令和だっつーの!!!
 大同窓会で黙祷して、ちょっとは殊勝な気にならなかったのでしょうか。それそもそのときは単なる老衰や病気、あるいは事故などで亡くなった大先輩方のことしか思い浮かべなかったということなのでしょうか。
 何故111周年記念式典になったと思っているんでしょうか、ゾロ目でめでたいね、とかじゃないんですけど? 何もなければフツーに110周年にやっていましたよ、死者が出たから大運動会もタカスペも何もかも吹っ飛んで、記念式典も繰り越されてるんでしょ? そこからまだ丸2年経っていないんですよ? 去年は休演日で劇団は何もしなかったけれど、今年の命日はどうするんでしょうかね? 三回忌なんですけどね??

 件のOGは無礼講発言をしたSNSについて謝罪や訂正をすることはなく、むしろ友会会員の盗撮行為を例に挙げて反論する始末です。うん、隠し撮りはマナー違反だし、もはや一般人になったOGにも肖像権はあるので犯罪ですね。つまり両方とも悪いことなので止めましょう、という話でしかないのです。反論になっていない。
 この方だけの意識、問題だとは思えないので、一事が万事こうなんだろうなと思うと、それは受験スクールで受験生たちに植え付けられ、彼女たちが入団すればそういうローカルルールで物事を進め続けるでしょうい、一方で現在の団員たちにも生存者バイアスがあってなあなあで進め続けているなら、何かが改善される余地などあるのか疑わしいところです。
 もちろん劇団はすべてスルーだし、炎上なんて2、3日もしたら次の話題に飲まれるので放置が一番…と考えているのでしょう。そしてそれはおそらく正しい。でも、心あるファンに傷として残り続け、これからも足を遠のかせ続けるのです…
 もう遠征はしないとか、宙組は観ないとか、誰々さんが辞めるまでは観ないとか、様々に観劇回数を減らしている友達が私の周りにはたくさんいます。私も観劇回数は減りました。でも観てるじゃん、まだファンやってるじゃん、と言われれば、お恥ずかしい…としか答えようがないのですが、忸怩たる思いで、でも素晴らしい舞台芸術で特異なエンターテインメントで世にある意義や価値があると思うから、観続けているのです。ダメなところは正され、より良くなるはずだと信じて待っている。でもこうして裏切られ続けている…
 本当に、早晩、ギブアップ、となる日は来るのかもしれません。こんなんなら宝塚歌劇なんかなくてもいい、ない方がいい、となる日が、いつか、それも意外と早くに、来てしまうかもしれません。改めて、そう思わされた一件でした。
 あくまで個人の所感です。単なる私のお気持ちの表明ですが、書き記しておきます。

 

2日目11時観劇後に見つけたアナウンス。

2日目11時観劇後に見つけたアナウンス。初日にはいたショー銀橋にいないな、と思っていたところだったのです…

 

 

ふらり、ひっそり、ひとり。旅 その21/長野県

 七夕のころ、会社の後輩四人と「界 松本」に泊まりに行くという贅沢もカマしましたし、子供のころには家族でスキー旅行なんかに連れてきてもらったこともあり、初めて訪れる県ではありませんでした。ま、スキーは履いてみてちょっと歩いただけで、あとはもっぱら橇遊びをしていた記憶なのですが…しかし今考えると、橇で滑り降りるということはその前にあの斜面を登らなくてはならないということで、子供の体力ってすごい…!と、今回夏山の斜面を眺めてつくづく思ったりしたのでした。
 初めてなのは、今回、「女性限定ひとり旅」なるツアーに参加してみたことです。今までは普通のツアーにひとり客として参加するばかりで、老夫婦や女性グループの群れにひとり参加…というスタイルだったわけです。それが今回はハナから全員がひとり客…シーンと静まりかえっているのもなんかヤダし、さりとてコミュニケーションお化けみたいな人がアレコレ話しかけてさっさとグループ作っていったりとかするのもヤダな、など案じつつ、バスツアーの気安さもあってつい申し込んでみてしまいました。
 そういえばバスツアーも初めてかな。東京駅の集合場所にはすっかり馴染みになりましたし、上野駅なんかでの途中乗車にも慣れましたが、新宿駅西口の都庁下の大型バス駐車場なるものには今回初めて行きました。こんなところがあったんですねえ、バス到着を待つ間が蒸し暑いのには閉口しましたが…
 というわけで、「涼やかな高原を満喫 3つの高原リゾート 標高1900mの清里テラス 絶景の竜王SORA terrace&清泉寮2日間」なるコースに乗って、長野と山梨で優雅に避暑…と洒落込んだのですが、結論から言うと別にそんなに涼しくはなかったのでした(笑)。

 雲が多いのがかえって気が楽な快晴で、新宿を朝9時に出発。高速に乗るまでの眺めが、同じ都内でもあまり来ない方向の街並みだったので、楽しかったです。で、早速持ち込み弁当を広げる私…一日目は夕食の他はおやつしか付いていないコースだったので。朝も起きてすぐ出てきたしネ! バスの座席はひとりで2席の使用が確定していたので、キャリーバッグも持ち込んでストッパーかけて足下に置き、空になったお弁当箱はすぐキャリーにしまえました。
 2時間弱走ってサービスエリアでトイレ休憩がありましたが、早速ソフトクリームとメンチカツをいただきました(笑)。あるなら食べておかないとネ! たいてい飲まないで終わるんだけど、夜の部屋飲みのアテにご当地スナックっぽいものもいくつか買い込みました。こういうのも目についたときに買わないと、あとで自販機くらいしかないSAにしか止まらないこともあるので…
 そこからまた2時間弱走って、つまりバスツアーってまあまあの時間乗りっぱなわけですが、私は腰もお尻も頑丈で苦にしないので、うつらうつらしたりぼーっと眺めを楽しんだりしているうちに運ばれて、北志賀竜王高原に到着。
 バスを降りたら、気持ち涼しい…かな? でも風がなく、そんなに涼しさの恩恵を受けている感じがしませんでした。でっかいロープウェイで山頂まで10分ほどの遊覧で、雲を抜けるあたりは車内まで涼しい…気もしたけどやはり気のせいだったかも? 山頂は標高1700mのSORA terraceという施設で、やはり涼しい気はしなくもないんだけれど風がなくて日差しは強いので日向はやっぱり暑くて、やはり高原の恩恵を感じないのでした。
 まずはレストランで、雲海パイ包みとサラダとコーヒーのカフェタイム。パイ包みってのは、マグカップに入れたスープの上をパイで覆っている、アレです。それが雲の形みたい、ということですね。なので形を鑑賞して楽しんだら、パイをざくざく崩してスープの中に入れていただくのですが…プラスチックのフォークが史上初めての出会い!くらいに柔らかくてぐにゃぐにゃで腰がなく、サラダのレタスに刺さらないわカップの縁についたパイも削げないわで、タイヘン難儀しました…あと、このレストランが、大きな窓から雲海が眺められるのが売りなんでしょうが時間の関係で直射日光モロ当たりで、最初は窓際の席を取って写真撮ったりなんたりしていたのですが暑すぎて、すぐに奥の日陰の席に退散したのでした…
 ま、それでもおやつをいただき尽くし、あとは集合時間まで散策タイム。ハーブ園や花壇があったり、ベンチやハンモックがあったりの公園というか広場になっているのですが、端っこに「熊出没注意」の看板があったのがなかなかにシュールでした。
 テラスの端まで出ると、冷たい風が通って明らかに涼しかったです! 雲なのか霧なのか、が風に乗って流れていき、眼下に見える山裾の街や遠くの山並みなど、心が晴れる景色が堪能できました。
 ここで、雲海をバックに自撮りをしよう、とがんばったのですが…ちょうどいいところに日が差して、私のおでこと頭の特に髪が薄い部分に光が当たって見事に後光が差したような写真が撮れてしまい、のちにお友達に見せたらいい爆笑をもらえました。これは遺影にできない…!(笑)
 遅めの午後をゆったり楽しんで、あとはもう一路、斑尾温泉郷の今宵のお宿を目指すのでした。これまたすごい山道を行くので、運転手さんの技量に感心するばかりでした。
 ホテルは、冬はスキー、夏は家族連れがグランピングなんかしちゃう感じの大型リゾート、という感じでした。なので通されたお部屋もツインルームのシングルユースなのですが、ソファがエキストラベッドにもなる作りで、定員4名の部屋なんだろうな、という感じでした。広いのは大歓迎です!
 軽く荷解きして、まずは汗を流しに大浴場へ。脱衣所も洗い場も広く数があり、露天風呂はそんなに大きくはありませんでしたがちゃんと露天で、日が落ちるのが早くなりましたが夕日の残りを楽しみつつ、のんびり浸かれました。男女入れ替えはなく、すぐ隣が男湯なので眺めもそう変わらないということなのでしょう。
 夕食はブュッフェ。メニューは多かったけど、まあフツーかな。最初のうちは家族連れの、小さい子供たちの阿鼻叫喚がものすごかったんですけれど、時間が経つと潮が引くようにいなくなって、オトナの時間になりました(笑)。レモンサワーだけ追加して、和洋中アレコレ取ってきて優雅にモリモリいただきました。
 部屋でテレビの『もののけ姫』など眺めながら食休みして、もうお風呂からも小さい子連れのお母さんたちが引いたかな…という頃合いに再度大浴場へ。ゆったり洗髪して、部屋でまたぐーたらしながらタオルドライしつつテレビを眺め、日が変わるころ就寝…

 翌朝も雲が多い晴天でした。
 朝食ブュッフェは和食っぽくしてこれまたたくさんいただき、9時出発。またまた山道を行って、サンメドウズ清里に到着。こちらはパノラマリフト10分で標高1900mの清里テラスへ上がれる、ということでした。
 リフトは4人乗りでしたが、空いていてひとりで乗れたので、昨夜部屋飲みしなかった缶サワーをこっそりプシューッと開けつつ、のんびりほろ酔い空中散歩をさせていただきました。
 テラスは、芝生に映える大きなソファが並んでいたり、そこからもっと上の展望台まで上がるとウッドデッキにベンチがたくさんあったりして、どこからでも素晴らしい景色が堪能できるのでした。やはりそんなに涼しさは感じませんでしたが、雄大な眺めは十分楽しめました。
 帰りのリフトも眺めが楽しめて、よかったです。高所恐怖症でなくてよかった…
 下の売店ではいわゆるお土産物の他に、つい、大茄子を買ってしまいました。立派なデカさで180円だったんですもの…! 「ステーキがオススメ 焼くだけでトロトロに!」とか書いてあったので、つい…こういうところで生鮮食品を買って帰ることってまずなかったのですが、せっかくならご当地野菜を買って帰ってすぐ料理してみるのもいいかな、と主婦みたいなことを考えたのでした。その後ちゃんとステーキでいただきました、おいしかったです!
 その後は、清泉寮なるホテルのレストランで、ご当地食材の洋食ランチ。メインは鱒のソテーでしたが、これが肉厚で味がしっかりしていてとてもおいしかったです! もちろん白ワインを追加。
 ジャージー牛がいて放牧地が散歩できて、ソフトクリーム売り場は大行列でしたが、おなかいっぱいでパス…お土産物など買って、バスに戻りました。
 あとは一路帰京です。途中、渋滞に巻き込まれて、トイレ休憩を予定より多く二度取って、19時ごろ新宿で下ろしていただきました。西口は工事でワケわからないことになっていて、JR改札までたどりつくのに難儀しましたが、なんとか帰宅したのでした…

 というわけで、女性限定ひとり旅ツアー、楽しめてよかったです。二日目のランチでテーブルが一緒になった人とテキトーな世間話をして、あとはつかず離れずで、良き雰囲気でした。全員アラフォーからもっと上のマダムまで、既婚者なのか独身なのかもわかりませんが、みんな旅慣れている様子なのが持ち物なんかにもよく表れていましたね。ひとりで行動できる、というだけで精神的にも自立していてちゃんとしていそうですもんね…
 男女混合のひとり旅ツアーだと、また雰囲気が違うのでしょうか? それもまた、機会あればトライしてみたいと思いました。
 そうそう、長野や山梨といえばフルーツ天国でしょうが、最後のSAで食べた、「もうシーズン終わります!」みたいなコピーに惹かれて買った桃アイスがまったくおいしくなかったことは書いておこう…シーズン終わりだったからなんだろうけど、アイスに乗った桃の実が堅くてまったく甘くなくて、本当にしょんぼりものでした。悲しい…
 ま、こういうこともあるやネ!


〈旅のお小遣い帳〉

ツアー代金 49,900円
自分土産の七味ミニ缶 648円
部屋飲み用おつまみ 1,046円
ソフトクリーム 450円
姫豚メンチカツ 380円
夕食のレモンサワー 750円
お土産のお菓子、馬柄のふきん 1,860円
ご当地シートマスク 1,650円
飲むヨーグルト 290円
お土産のお菓子 480円
桃アイス 400円

 

雲海パイ包み。お味はようございました(^o^)。

天空への螺旋階段 (有料)。

天空への螺旋階段、有料(笑)。

清里テラスの展望台

「老後は遊んで暮らせますように」と念じておきました…

 

三谷文楽『人形ぎらい』

 PARCO劇場、2025年8月27日18時(全席指定平日10,000円)。

 時は現代、文楽の劇場。この日の演目は近松門左衛門作の『鑓の権三重帷子』で、槍の名人で色男の権三と人妻おさゐが不義密通の濡れ衣を着せられる「数寄屋の段」が上演されている。演じる人形は、権三役に二枚目専門の源太、おさゐは艶っぽい年増役を担う老女形、そしてふたりを陥れる仇役・川側伴之丞を演じるのが陀羅助(人形遣い/吉田一輔)だ。陀羅助は現実(?)でも老女形(吉田玉翔)の姐さんを慕い、源太(吉田玉佳)に嫉妬していたが…
 作・演出/三谷幸喜、監修/吉田一輔、作曲/鶴澤清介。2012年初演の三谷文楽『其礼成心中』に続く第二弾。全一幕。

 ミーハーですから、三谷幸喜の名前に惹かれて出かけました。三谷文楽の前作は未見。私の文楽体験としては今のところこちら
 いのうえ歌舞伎とか三谷文楽とか、脚本・演出家の名前で伝統芸能には客が呼べるのはいいことですよね。今度は三谷歌舞伎もありますし、先日まで野田歌舞伎もやっていましたもんね。モダンすぎるものを嫌う向きもあるかもしれませんが、今の映画『国宝』効果なども多少出ているようですし、やはり何かしらきっかけがないとなかなか敷居が高いものですからね…なので、今回の観劇で初めて文楽のお人形を、人形遣いを、太夫や三味線を弾く方を初めて見た、という方も多いかもしれませんし、それで次は本物の文楽を観てみよう、となるといいですよね、とどこ目線かわかりませんが思ったりしました。客席、すんごいウケてるなと思ったので…カーテンコールとか胸アツでしたしね、舞台の上の人がみんなニコニコ嬉しそうで良きでした。
 でも、私は、なんかよくわからなかったのですよ、正直…
 お人形が通天閣登ったりスケボー乗ったりするのは、そりゃ楽しいですよね。可愛らしいしいじらしい、笑ったしじんわりしました。でも、人形遣いが工夫してやればなんでもできるのは私にはあたりまえのことに思えたので、それよりこの作品の、物語の、階層みたいなものが私には上手く咀嚼できなかったのです。
 人形自身が、お芝居の役を人間によって演じさせられているだけで、自分では何もできないと気づく。夜中に棚?の中でジタバタしても、身動きできない。そのジタバタは、いつもと違って黒幕の奥に隠れた人形遣いが、舞台からは見えないようにして人形を動かしているのだけれど、でも要するに人間が動かさないと人形が動けない、ということには変わりがない。人形なんだから、あたりまえです。人形が勝手に動いたら化け物です、お祓いが必要です。
 文楽のお人形は、人形遣いが動かして役を演じさせている。人形遣いは黒衣になって(かしら遣い以外は、かな? まだいろいろよくわかっていなくてすみません)人形の背後ないし傍らにいて、でも黒衣を着ているので観客としてはそれは見えないものとする、というお約束を受け入れて、舞台を観る。
 でもこの作品の人形は、自分の意志で動き出し、劇場を飛び出て街に出る。新幹線に乗ろうとすらする。でも…そう動かしているのは人形遣いじゃん、人間じゃん。黒衣なんか脱いで人形を鞄にでも詰めたら、どこへでも移動させてあげられるのです。そういうことじゃないの?
 人形が自分で動き出す、というファンタジーを受け入れて、人形を動かしている黒衣の人形遣いはそのまま見えるものとする、のはいいけれど…人形遣いたちは自身の意思なんかもあって、人形の無茶な要求におたおたしたりする、というのはおかしいし笑うんだけど、でもなんでこの人たちは顔も出さないの?と思ってしまい、なんか混乱したまま観ちゃったんですよね。人形遣いが人形を動かしているのではなく、人形が人形遣いを動かしている…ということなのかもしれないけれど、なら人形遣いにはホントはあんなふうに通天閣も登れないしスケボーもできないでしょう。だって人形が遣えるほかはフツーの人間なのですから…スケボーが趣味の人形遣いさんがいらしたらすみません。
 で、結局ジタバタしたけど人形は劇場に戻って、また舞台を務め出す…うーんやっぱり私には意味がよくわかりませんでした。人形と人間の、役と役者のレイヤーのドラマというかが、なんか整合性が取れていなかった気がして…理屈っぽくてすみません。
 でも、企画そのものはとてもいいなと思いましたし、第三弾構想もあるようなので、まだまだいろいろやってみるといいんじゃないでしょうか、と思いました。そしてここから伝統芸能の道に進む若者が現れるといい…! それは、一舞台ファンとして、せつに願っています。

 

『人形ぎらい』ポスター